2012/10/19

つよい視線



仲間たちの作品には
すごいものが隠れていることがある。
それに気付くと
どんな色やタッチを重ねたのだろうかとか
どんな気持ちで描いたのかとか、
そんな解釈をしたがる、
上から目線の自分が
へなへなと崩れてしまうような、
そんな思いをされたことはないだろうか?
例えば、人物像。
見ているはずの私たちが、
逆に見られているような気になる。
絵のつよい視線に
隠していたいものが見透かされているような気分になる。



このあっけらかんとした目からは
濁りのない明瞭な光が感じられる。
どこにも影がない世界に置かれたような気持になってくる。
ちょっと太刀打ちできない力だ。



この針の孔のような小さな目にも
見る者を射抜くような力が感じられる。
(岸田劉生の麗子像にも同じような力が宿っている?)
じっと睨み合っていると
息苦しくなる。
でも、目を離すことはできない。
で、
ときどき、
こんな絵を描く仲間たちが
とんでもないゲージツ家に見えたり、
人生の達人のように思えて
頭を垂れたくなったりする。

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2012/10/16

月夜には



「シャワーです。どんどん降ってます。」
自分から話すことはないIさんが、
突然、つぶやいたのでびっくりした。
彼女の言葉の意味もわからなかった。
森の中、
満月の夜は澄み渡っていた。
木々の間から月に照らされた相模湾が広がっていた。
「何が降ってるの?」
「月です。月が降ってます」
彼女が広げた掌にも月光が当たり、
指の間から滴り落ちているように見えた。

水のように降る月の光・・・・
Iがくれた、そんなイメージを仲間たちと絵にした。
紺色の画用紙に白だけで光の雨を描いた。
丁寧に一粒、一粒、一滴、一滴。
仲間たちの描いた月光は刺し子のようにやさしく見えた。

十年以上も前のことなのに
この作品を見ると
私の中のどこかで、
いまも
あの夜の光の雨が降り続いているような気がする。



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2012/10/12

1枚の絵から



このがむしゃらに強い線を見ていると、
一人の青年Rさんを思い出す。
懐かしい人だ。
都内の特別支援学校で出会い、高等部の3年間を一緒に過ごした。
強烈な自我の持ち主。
それが侵されるのを決して良しとしない。
彼にとっては、学校は抑圧の館?のようなもので
すきあらば抜け出した。
どこに向かうかというと、東京ディズニーランド。
外に出ると、目つきが変わる。
周りのモノは一切目に入らないように、
駅まで一直線に猛ダッシュする。
あらかじめ計算したように、
迷わず最短距離の経路で目的地に向かう。
駅の改札口やディズニーランドの入場検査は強行突破する。
彼は言葉で意思を伝える人ではない。
あくまで実力行動の人なのである。
そんな無法者(?)の彼なのだが、
いったん、ディズニーランドに入ると、
しっかりルールは守る。
自分のいきたい場所の行列の最後尾に並んで静かに待っているのだ(笑)。
ある時は行方が分からずやきもきしていると、
成田空港や東海道新幹線の車中から連絡が入った。
本場アメリカのディズニーランドへの密航?や
大阪のUSJへの大脱出を企てたのだ。
一年に一回は、必ずそんな大脱出を試みる。
決行の前夜、目を輝かせて床に入っている彼を想像すると、いまでも微笑んでしまう。
この絵からは、
そんな彼のあふれる自由への想いや決して屈しない意思が
希望のように伝わってくる。
いい絵だなと思う。

でも、この作品はRさんの絵ではない。
「老」を描いたかずきさんの作品だ。
魔法使いサリーちゃんの三つ子の兄弟に似ている双子の一人って紹介したら、
「ぜひ写真で見たい」っていう声がいくつか寄せられたので、この機会に紹介する。
どう、30才になった三つ子を想像してみてください。(笑)



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2012/10/09

空をあむ季節



見上げると
虫食いの葉っぱが空をおおっていた。
曇り空に透ける葉脈
レース模様のように広がっている。
姿を見せない虫が
せっせと繊細な模様を編み続けている。
そんな想像をしたら
貼り絵のトレーニングテーマは青虫にしようと思った。



夏の葉っぱを食べる夏色青虫
秋の葉っぱを食べる秋色青虫
仲間たちは楽しんでくれるだろうか?

せんべいのように
カリカリ、音を立てて食べる青虫たち
どんどん広がっていく空のレース・・・・
仲間たちと作るエリック・カールのような絵本が浮かんできた。
そんなことを思って、
木々を見ると
もう一人、レース編みの名人がいた。
クモのヘルピーばあちゃんだ。(注1)
ばあちゃんは枝から枝へ
とても大きなレースのカーテンをかけている。



少し赤く染まった空に
いろいろなレースがいっぱい。
秋は生命を編みこむレースの季節なんだ。



(注1:絵本「ねっこのルーティ」に出てくる、クモのお助けばあちゃん)

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2012/10/05

秋はオフロだよ!

きょうもりほちゃんの話。
秋になって
型紙でブドウや西洋ナシなんかを描き始めた。
これは形を意識する表現トレーニングの一つ。



りほちゃん、本当はそんなものやりたくない。
心の中に生まれてくる言葉や絵模様を
自由に描きたいのだ。
でも、ま、仕方ない。
「やってみようよ」という私の顔を立てて取り組んでくれてる(笑)。

この前は
グラビアのモデルさんの顔を描いた。
机に写真を置いて、ボールペンで描き始めた。



どんなふうに描くのだろうと、
少し離れてみていると
右隅に小さく、
くしゃくしゃと描いた。
つぎに、縦にゆらゆら揺れる二本の棒?
つぎは下方に緑色の横線
どんどん描くスピードが速くなる。
そして、突然
モデルさんの上に大きな文字が現れる。
オフロ!



湯にのぼせたモデルさんの赤い顔や湯気、
緑色の湯、青いオフロの文字、
頭上に吊るされたランプ(?)・・・・
おお、これが描きたかったのかと
私はなぜかホッとする。
描きたくもなかった(多分)モデルさんの絵をうまく利用して
暖かそうなオフロを表現している。
りほちゃんの柔軟な想像力や想いを表現する力が伸びてきてるなあと
嬉しくなる。
りほちゃん、
秋は、やっぱオフロだよね。

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