このホームページを一緒に作ってくれるCURIOUSのみなさんから、こんな部屋をいただいた。
「なにをかいてもいい」って言われ、「ホントにいいの!」ってもう一度聞いたら、 「もちろん!」と嬉しいお言葉。
とんでもないことを書くかもしれないけれど、ぜひお友達を誘って遊びに来てくださいね。

2017/08/18

Vol.410「夏になると、絵も発熱する…」



夏になると、仲間たちの絵も発熱する。
スポイトで紙に絵具を垂らす。
夏の暑さを切るように腕を振り、色を散らす。
何かを描くのではなく自在な色の動きを追いかける。
それから、みんなで紙の端を持ち上げ、色の流れをつくっていく。
色はいたるところで交差し、合流し、川になっていく。
どこかで見たことがあるような異国の夏の地図・・・
発熱し続ける市街のきな臭い匂いがする。
壁に貼り付けると、翼を広げ、奇妙な声をあげる始祖鳥の姿が浮き上がってくる。



まずは、小さな器に絵の具をたらし、刷毛で音を立てて混ぜましょう。
次に、紙の上に思い切りよく垂らし、雑巾で円を描きながらのばしていきましょう。
適当な大きさの丸ができたら、ドライヤーで乾かしましょう。
焦げつかさないように、ゆっくりゆっくり・・・。
次に、上からクレパスや色鉛筆でお好みに合わせた線や模様をトッピングしていきます。
夏気分に合わせて、ミント味の線やスイカ模様も幾つも散らして、
それから、最後に吹き出しに想いおもいの夏の言葉も書いて・・・。
さあ出来上がり!
夏のアツアツのお好み焼き、
舌を焼かないようにゆっくり召し上がれ!



人でごった返す駅ビルの一室、
机に向かって、父と子がアートをしている。
何年かぶりのなつかしい風景。
お父さんは泰さんの描いた描線や色彩を切り取り、泰さんに手渡す。
泰さんはそれを貼っていく。
流れ作業のように黙々と続く二人の作業。
最初はぎこちなく、やがてそれは積み重なり、
言葉にはならない二人の息遣いやリズムが厚みを持ち、層になっていく。
手を近づけると、絵の中から熱が伝わってくる。
太古から続く地中のぬくもりのように、
夏の午後の二人の時間が溶け出し、
一つの物語を語り始める。


2017/08/11

Vol.409「花開時蝶来 蝶来時花開」



7月に入ったばかりの蒸し暑い夕方、
「ある星のつながり」という心ひかれる名前のグループ展を観に行った。
藤沢の「gineta」。
七夕が近く、駅前の商店街には色鮮やかな短冊が風に揺れ、
和らいだ陽ざしの下を行きかう人々の表情も柔らかい。
生ぬるい水の中を歩いているようなけだるさが少しずつ剥がれ落ちていく。
一日の終わりに作品たちに会う。
それはやはり心ときめくことだ。

「gineta」の扉の木の取っ手。
その感触は年を経た人の掌のようになつかしい。
それを改めて感じながら扉を開ける。
小さな作品が河原の石のように並んでいる。
或いは宙にゆれる石の葉っぱ。
いきものたちの気配が濃い。
大半は陶芸作品なのだが、陶芸展という既成の空気感はない。
小さなオブジェ展。
小さなものたちが集まり、さんざめいている。
それぞれの言葉、それぞれの物語。
表現者より表現されたものたちが何かを語る、そんな作品たちがいい。

「お久しぶりです」
声をかけられ、振り向くと、益子で制作されている能登実登利さんがいた。
洗練された形ではなく、そこから形象をそぎ落としていくような・・・
なめらかさを削いで、土の素肌をむき出しにしていくような・・・器。
彼の器には、個として存在する感情のようなものを感じる。
寂しさや孤独、それから大きな希望のようなもの。
それは彼が時々、世に向けて発信する絵手紙にも感じられる。
美しい色彩、描線、文字・・・コラージュされた素材の感触。
器と同じ個としての感情が小さな宇宙に満たされている。

夜、駅前の居酒屋で彼と少し話をした。
他愛ない話し。
「つげ義春はいいよね」「無能の人・・・」「ん、いい」
「いままでの絵手紙をできるだけ広範囲に集めて、展示したらいいのに」と提案すると、彼は「いや、いや、いい」と恥ずかしそうに手を振った。

彼の絵手紙にあった良寛の漢詩の一節が頭に浮かんだ。
花開くとき、蝶きたる
蝶来るとき、花ひらく
それは彼と作品たちとの世界なのかもしれない。
ボクとフェースの仲間たちの関係もそうであればいいのだが。




2017/06/30

Vol.408「木のことば」



一本の木と話をしている。
話をするったって特別の言葉があるわけでもないので、ボクの方が一方的に語りかけるだけの事なのだが、木は時々何かを返してくれる。
例えば、風の日は新緑を揺らすきらめきだったり、雨の日は木肌を濡らす水の匂いだったり、枝から落ちてくる雨粒の音だったりする。
その木は横浜の郊外の団地にある大きなケヤキだ。木を取り囲むようにしてぷかぷか村のお惣菜屋さんや焼き菓子屋さん、パン屋さん、アート屋わんどがある。
一人、ゆうぜんと立っている木なのだ。
その下は、いわばぷかぷか村のメインストリートで宅配の給食やパンを抱えた仲間たちがいつも往ったり来たりしている。暑い日には木陰で休んだり、歌をうたったり、追いかけっこをしては笑いあったり、悲しい時には泣きじゃくっていたりする。
たぶん、ぷかぷか村の仲間たちのことを最もよく知っている木なのだ。
そんな木と話をするようになったのは、ぷかぷか村で7月にアートワークショップをやることになったからだ。
どんな事をやろうかと考えていると、なぜか木のことが頭に浮かんだのだ。
空に向かって大きく枝葉を伸ばした一本の木。
仲間たちはこの木をどんな風に思っているのだろう、聞いてみたくて仕方がなくなった。木と話し合って、それを表現する。そんなワークショップをやってみよう・・・と心が決まった。
それからボクはぷかぷか村に行くたびに、木肌に頬ずりしたり、根元に寝転んでみたり、時には幹を伝う雨水をなめたり、仲間が作った『どこでもドア』を取り付けてみたり・・・いろんな方法で木の言葉を聴こうとした。
すると木は「きょうの青空はどうだい?」とか「風は葉っぱのシャワーのように気持ちいいんだよ」とか「体の中を流れる川の音を聴いてみるかい?」・・・話しかけてくれるようになった。
木と話すことはそんなに難しいことじゃないんだ。
そう思うと勇気がわいてきた。


6月の終わり、
仲間たちと木の中を流れる水の音を聴いた。
「何も聞こえません」
「風の音がします」
「何か聞こえます」
「蟻がのぼっています」
「上に流れています」
そんな言葉が生まれてきた。
アート屋わんどに戻って、長い紙に棒筆で木の川を描いた。
それから床に寝そべって、川の水に木の言葉を描いた。
それを使って、7月ワークショップのポスターが出来た。




2017/06/23

Vol.407「『羽のあるふくろう』ができるまで」



梅雨に入った土曜日の朝、
本号(vol.407)「きょうのくすくす」に掲載されている翔太画伯の『羽のないふくろう』と対になる作品『羽のあるふくろう』が完成した。
絵づら的には全く対照的な二つの作品だが、タイトルが示すように画伯的には二つで一作ともいうべき作品なのだろう。
その作品の裏面に画伯自身による作品解説びっしり書かれている。どんな想いで描いてきたのか、制作途中の迷いや希望が表現された名文なので、以下に全文掲載する。

タイトル「羽のあるふくろう」加藤翔太/SYOTA KATO
前作のタイトル「羽のないふくろう」に続く作品。
一羽の羽のあるふくろうがいた。
夜「ほーほー」と鳴いていた。しかも羽が2つ付いていて空も飛ぶことが出来る。
そしてふくろうは木に止まって静かな時間を過ごしている。
大きないも虫達が2匹書いていたところが良さそうだ。
丸が数個くらい書いている所もいて線もある。
暗い色も見えないかなあーと。
絵の具を書いて見たがインパクトが強かったかなと。
本当は色鉛筆を書いてから小さい筆でうすく(薄く)(水を)伸ばしたかったと。
黒に色鉛筆の白で模様のハートで小さく書いた。
隙間を埋めるくらいびっしりと。
濃い青で白の丸を書いて見ました。
金子光史(先生)にも協力を頂き暗かったかなと。
Yの字の赤に黄色と桃色の(線の)模様を2色書いて見ました。
多分模様はいけるんじゃないかな。
星とか旗とか丸とかハートとかの模様は色鉛筆とボールぺんで書きました。
全体を通すと分からないのですが作品を見ると不思議な作品が出来たのかなと。
次はどんな作品が出来るのか。
楽しみに待っておこう。
2017年6/10(土)梅雨

最後の3行にボクは感動した。
描いている画伯自身にも分からない作品を楽しみに待っているのは、
実はボクもそうなのだ。
未だ現われない作品たちを仲間たちとじっと待っている、フェースはそんな時間なのかもしれない。



2017/06/16

Vol.406「『海ハ広イナ』をみんなで歌った」



暑くなった6月の日曜日、湘南海岸にある生活支援施設「太陽の家」のお祭りで、この一年、利用者の仲間たちや就学前の小さな仲間たち、地域のアート好きの仲間たちとワークショップ形式で取り組んできた巨大絵本「海辺の音楽会」の発表会をやった。
いや発表会たって、そんなに大それたものじゃない。
場所は、400人くらいの人が自由に行き交っている体育館。床面にたくさんの座り机が用意されていて、好き勝手にすわり、屋台で買ってきたバーガーや焼きそばをほおばりながら、舞台でやっているパフォーマンスをみんなで楽しもうという趣向。
よくあるスーパー銭湯の休憩場を大きくしたようなものをイメージしていただければよい。
とにかくにぎやか。
パフォーマンスを集中してみるという雰囲気は皆無。
舞台で声を張り上げバルーンアートを披露しているお姉さんの声も途切れがち。
読み聞かせ絵本の発表会としては、かなりハードな状況なのである。
救いは、お姉さんから風船人形をもらおうと舞台下に集まっている子どもたち。
彼らだけがお姉さんの作る風船人形に集中している。
風船人形は子どもたちには魅力だろうけれど、巨大絵本はどうなのだろう?
不安がよぎる。しかし、やるきゃない。
二回興業、時間は10分。
YouTubeに流すカメラもセットした。
ヨシ、スタンバイOK!



絵本は2人が持たなければ開けない大きさである。それがパッと開くと、それまでホット
ドッグをほおばっていた人々の目線がチラッと舞台の方に動く。
おお、いいぞ!
少しずつ子どもたちや一緒に絵本を描いてきた仲間たちが舞台に集まってくる。
ナレーションの市島さんの言葉にうなづく子どもたちも出てくる。
やがて、最後のシーン。海に大きな月がのぼり、海辺のベンチにかもめやトンビや猫、犬、カニやどんぐり、わかめまで集まって来て、音楽会が始まる。



柏さんの笙の音が体育館の中を流れる。
優しい音色ににぎやかだった体育館が一瞬静まる。
それからみんなで歌いだす。
「ウミハヒロイナ、オオキイナ。ツキハノボルシ、ヒハシズム・・・」
「ウミニオフネヲウカバセテ、イッテミタイナヨソノクニ・・・」
手作りの波の音がゆっくり、みんなの歌を追いかける。
海辺の音楽が広がっていく。
絵本が閉じると、前列に座っていた子どもたちが「みじかーい!」「もっと~」!と言った。
嬉しかった。